放射線からの影響を低減する
2011年3月11日に発生した東日本での大地震よる原発事故によって、広い地域において通常よりも高い放射線量が観測されています。比較的低濃度の放射線量ではありますが、長期にわたって低濃度の放射線下で生活しなければならない可能性もでてまいりました。そのため、放射線を避けることや、放射線の影響を受けにくくするなど、放射線から身を守るための対策をとることも考えなくてはなりません。その方法の1つとして抗酸化力を上げることも重要です。これまでにビタミンCなどの抗酸化物質により、放射線による影響を防ぐことができるといった内容の論文や報告がされており、放射線に対する抗酸化物質の効果が期待されています。放射線が人体に与える影響のメカニズムの1つとして、放射線が体内の水にあたるとフリーラジカルとよばれる物質が発生します。このフリーラジカルは生体を酸化させ、細胞や遺伝子を損傷します。このフリーラジカルは本来人の体内に内在する抗酸化作用によって消去されますが、ビタミンC等の抗酸化物質を摂取することによって、より効率的に消去されることがわかっています。よって、放射線による影響が懸念される環境下では、より積極的に抗酸化剤を摂取すべきと考えます。
原発事故後、点滴療法研究会から、長期にわたる低濃度放射線被ばくにより生じうる健康被害を抑えるため、ビタミンC、アルファリポ酸、セレン、ビタミンEといった抗酸化剤を医薬品又はサプリメントで摂取すべきであると発表されました。すなわち、「(1) 妊娠可能な女性(体重50kg)が自然界より2倍以上高い放射線量の環境で住む場合」、「(2) 体重50~70kgの人が自然界より5倍以上高い放射線量の環境で住む場合」の抗酸化剤の摂取量が提唱されており、その1つとしてビタミンCは、(1) の場合は1回2g・1日4回、(2) の場合は1回2.5~3g・1日4~6回の摂取が推奨されています。
点滴医療研究会はビタミンCなどの摂取量は提唱しておりますが、これらを摂取することによって得られる抗酸化能の値については示されておりません。抗酸化能の摂取のみを目的とするならば、ビタミンC以外の抗酸化剤でも代用が可能と考えます。そこで、ビタミンC以外の抗酸化剤を代用する場合の抗酸化剤の摂取量の指標とすることを目的とし、ビタミンCの摂取量をもとに、抗酸化能を推定致しました。これによりビタミンC以外の抗酸化剤でも代用することが可能になります。
まず、抗酸化能を示す方法はいくつかありますが、アメリカで抗酸化能を示す標準的な指標として用いられている「ORAC(Oxygen Radical Absorbance Capacity)」を引用することに致します。ORACとは、一定の活性酸素種を発生させ、それによって分解される蛍光物質の蛍光強度を測定する方法であり、単位は「μmol TE/g」で示されます。この単位は、検体1gが、抗酸化物質であるTE(トロロックス)のどのくらいの量に相当するのかを示しています。ただし、β-カロテンなどは、抗酸化作用の反応機序が異なり、ORACの測定ができないため、ORACで抗酸化能を示すことはできません。
◆ORAC値の算出
点滴療法研究会では、ビタミンCの摂取量をラットやヒトの白血球を用いた試験結果から摂取量を算出していますが、ORACはあくまで抗酸化能の指標であるため、各抗酸化物質の固有の効果も考慮する必要があります。点滴医療研究会で提唱されたアルファリポ酸、セレン、ビタミンEの摂取量は、チェルノブイリ事故時の報告に基づいて摂取量を決められています。そのため、試験結果から摂取量が算出されているビタミンCからORACを算出しました。
1.ビタミンCから得られるORAC
(1) 妊娠可能な女性(体重50kg)が自然界より2倍以上高い放射線量の環境で住む場合
ビタミンC1g中のORAC値 :6800 μmol TE/g
吸収量 :2g※
ORAC値 :13600 μmol TE
(2) 体重50~70kgの人が自然界より5倍以上高い放射線量の環境で住む場合
ビタミンC1g中のORAC値 :6800 μmol TE/g
吸収量 :1.5~2.7g※
ORAC値 :10200~18360 μmol TE
※ビタミンCの摂取量と吸収率を考慮した値。ビタミンCの吸収率は、100mg摂取した場合、80~90%が吸収されますが、6000mg摂取した場合は26%、12000mgを摂取した場合だと16%まで低下します(参考:Hickey and Roberts, Ascorbate (2004))。ここではビタミンCの吸収率を(1) では25%、(2) では15%とし、ビタミンCの吸収量を算出しています。
ビタミンCは1度に多量を摂取するよりも、分割して投与した方が吸収率は高くなるため、1日に複数回摂取するといった工夫が必要です。なおご参考まで、チェルノブイリ事故当時、汚染地区に住んでいた子供に対し、アルファリポ酸400mgが28日間毎日経口投与されたところ、対照群と比較して、白血球機能の正常化、脂質の過酸化、腎臓と肝臓機能の改善が報告されています。また、アルファリポ酸とビタミンEを同時に摂取することにより、アルファリポ酸の単独投与以上の効果があったことや、セレンやコエンザイムQ10なども細胞を放射線から保護するといった報告もあります。
放射線からの影響を低減させるためには、日々の生活から放射線から身を守る意識が必要です。その方法の1つとして、日常的に医薬品やサプリメントにより抗酸化物質を摂取し、放射線からの影響を低減できるものと考えます。